水戸地方裁判所 昭和23年(ヨ)31号 決定 1948年7月21日
申請人
池澤佐平次
被申請人
古河町選挙管理委員会
主文
本件の請求を却下する。
請求の趣旨
申請代理人は被申請人が昭和二十三年七月五日爲した申請人等が、茨城縣猿島郡古河町会議員たることの解職請求に基く解職投票に関する告示の効力発生は、申請人等から被申請人に対する右告示取消の本案判決確定に至る迄之を停止する。被申請人は右解職投票に関する一切の手続をしてはならないとの裁判を求むる。
理由
申請人等は昭和二十二年四月三十日施行の茨城縣猿島郡古河町会議員選挙に当り、立候補して孰れも当選し、爾來町会議員としてその職を孰つていたものであるが、古河町居住の選挙有権者である高橋信次郞、有田精吉、岩井市次郞、小堀今市、相良精一の五名は申請人等は口に愛町を唱えるが、その言動盡く之に反し、私情を以て論難画策し、偏見を以て公事を断じ常に町会を混亂させ、特に古河町に起つた学校建設問題、水難救助金問題、消防委員問題等に関しては、申請人等四名策動のため、公共の福祉も事業の遂行も妨げられ、遂に古河町の前途を誤らすに至り、議員としての職能と、信賴とを失墜したと謂う理由で、昭和二十三年六月四日古河町選挙有権者総数一萬五千四百九名の内、五千二百五十四名の選挙有権者の連署を得て、その代表者として、古河町選挙管理委員会に対し、古河町議会議の議員である申請人四名の解職請求をした。然るに右連署者中約半数の者は、自ら署名捺印したものではなく、明かに他人の記名に捺印したに過ぎないものである。尚、右連署者中六百十一名の者が解職理由とするところが虚僞であつて、申請人等を中傷するものであることが判明したので、その連署の取消手続をした次第である。若しこの請求取消者六百十一名を前記連署者五千二百五十四名中から控除すれば、本件解職の請求者は差引四千六百四十三名となり、古河町選挙有権者総数一萬五千四百九名の三分の一である五千百三十七名に達しないこととなる。從つて本件解職の請求はその理由とするところが全然虚構の事実である許りでなく、既に地方自治法の要求する解職請求者の決定数を欠き、而もその約半数が自署しない不当の請求であるに拘らず、被申請人は之を正当なものとして、昭和二十三年七月五日申請人等の解職投票期日を七月二十五日とする旨の決議をし、同委員長は同日右決議に基いて、その旨の告示をなしたものであるから、申請人等は被申請人に対し、右解職投票告示取消の請求訴訟を提起したのであるが、この儘に推移するときは、右本案確定前投票期日到來して、投票が行われることに立ち至り、そのとき萬一解職の賛成投票数が過半数以上ともなれば、茲に回復することのできない損害を被る虞があるから、右告示の効力停止及び解職投票に関する一切の手続を停止して、投票を行わさせない必要があるので、本申請に及んだ次第であると謂うにある。
案ずるに、申請人等が猿島郡古河町会議員であつて、その選挙有権者であること及び昭和二十三年七月五日同町選挙管理委員会の決議に基いて、右古河町会議員である申請人等の解職投票を同年七月二十五日執行する旨同委員会の告示があつたことは、何れも申請人等に対する当裁判所の審訊の結果、及び申請人等提出の疏明によつて、之を認むることができる。本件解職請求の理由は何等根拠のないことであり、而もその請求者である五千二百五十四名の約半数は、自署捺印したものでない許りでなく、右の内六百十一名は後に至つてその解職請求を取消した結果、解職請求者は四千六百四十三名に減じ、同町選挙有権者総数一萬五千四百九名の三分の一である法定数の五千百三十七名に滿たないことになつたのに拘らず、選挙管理委員会が、右請求に基いて、不当に投票期日を決定し、之を告示したと主張するが、右の事実は姑く之を措いて、本件仮処分申請について、形式上存在する右決定による告示に基いて、投票を本案判決確定に至る迄、阻止すべきであるかどうかと謂うことについて、先ず探究する必要がある。
抑も行政事件訴訟特例法附則第一項第二項により、本件に適用される同法第十條第一項第二項により、行政廳の違法処分の取消、又は変更を求める訴の提起は処分の執行を停止しないのが原則であつて、右訴の提起あつた場合に、処分の執行に因り償うことのできない損害を避けるため緊急の必要ありと認めるときは、裁判所は申立に因り、又は職権で決定を以て、処分の執行を停止することを命ずることができるものであることは規定上明白である。而して、同町選挙管理委員会の前記投票告示によつて、選挙人並びに解職議員に如何なる損害を被らすかと謂うことについて考えると、選挙人としては、当該行政処分によつて、議員解職投票の権利義務を行うに過ぎないので、投票することによつて、茲にいわゆる償うことのできない損害を被るものとは謂い難い。次に解職議員としては、仮に投票が行われて、解職の賛成投票数が過半数以上になつたとしても、地方自治法第八十五條第一項、第六十六條同法施行令第百十五條第一項、第百十四條第百五條により、投票の結果につき異議、訴願、出訴の方法を以て、順次不服の申立をなして、その効力を爭い、異議に対する選挙管理委員会の決定、訴願に対する縣の裁決、出訴に対する裁判所の判決が、夫々確定するまでは、その職を失わないのであつて、之又敢て本件投票によつて、所謂償うことのできない損害を被るものと謂うことはできない、從つて孰れの面からするも、形式上存する本件選挙管理委員会の投票告示に基いて、本件解職投票を執行することを停止するについて、行政事件訴訟特例法第十條についわゆる償うことのできない損害を避けるため、緊急の必要がある場合とは考えられない。よつて以上の点以外について、判断するまでもなく、本件申請はその理由がないことになるから、之を却下すべきものとして、主文のように決定した次第である。
(重友 川村 池羽)